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【書評】江馬修「山の民(上)(下)」

山の民〈上〉
山の民〈下〉

岐阜県飛騨地方で、明治維新の時期に起きた「梅原騒動」を扱った歴史小説。

理想の志に燃え、近代的な施策を次々と打ち出す梅村速水知事。
天領民としての治世に慣れきり、急速な改革を喜ばない町民や農民たち。
こうしたギャップは、やがて飛騨高山を中心とした農民一揆へと発展する。

描写が非常に生々しく、幕末から明治初期の飛騨地方の農民の生活がリアルにイメージできる作品である。

それと同時に、「実現していれば飛騨はもっと早く豊かになった」といわれた優れた政策が、なぜ農民たちには受け入れられなかったのか、飛騨をとりまく各ステークホルダー集団の利害関係を克明に描かれている。

旧弊を改めるのは容易なことではないのは、現代でも日々思い知らされるところである。

太平洋戦争後のアメリカのように有無を言わさぬ圧倒的な力でもなければ(あったとしても、か?)、改革はステークホルダー間での取引となり、バランスが取れるところで骨抜きにされるか、そうでなければ決裂する。

そこで自分のメリットを最大化するための戦略なり、戦術が必要になる。具体的には、物事の優先順位付け、効果の見積もりや、相手とのチャネルの確保、反対陣営の切り崩しといったことであろうか。

梅村知事の改革は、理想とそれを実現するための施策のみであったと思われる。

どのように理想を実現するか、という場合には誰がいつまでに何をする、といったタスク、スケジュールといった表の実現施策だけではなくて、誰を抱きこむ、誰を切り崩す、といった裏工作も必要な一要素なのだろう。

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